職人File Vol.1 「ヘゴなもんは作れん」
大工 松岡一仁
年齢:48歳
幼い頃から大工衆に囲まれて育ち、木材の切れ端や金槌が遊び道具。
父親の大工道具を台無しにしたこともあった。
中学校を卒業すると、自ら父親の跡を継いで大工になった。
大工の仕事は、盗んで覚えるもの。
見様見真似でやっては先輩に怒られ、歳の近い兄弟子と腕を競いながら修行を積んだ。初めて現場を任されたのは19歳のとき。
墨付けから始まって、家一軒を一人で完成させたことが自信となって、21歳で独立。その後、数えきれない数の家を手がけてきた。
家が飛ぶように売れるバブル期を経験し、業界の浮き沈みを見てきた松岡氏。
「着実な仕事をしてきたから、生き残ってこれた」と、大工としての生き方に誇りを見せる。
道具を見せてほしいと言うと、
「これは初めて親父に買ってもらったもの」
「これは弟子の頃から使っているもの」と、
手入れが行き届いた鑿、鉋、鋸が並んだ。鑿の持ち手はしっとりと艶を放ち、研ぎを繰り返した刃の長さは1/3ほどに磨り減っている。
鉋には彼の手にピタリと合う指孔が彫り込まれている。
「いろいろ買い揃えてみても、やっぱりこれが使いやすい」という、35年来の相棒たち。
近頃の現場では、早く正確に加工できる電動機械の活躍が目覚しいが、この相棒たちが手元にないと「安心できない」と松岡氏。
いざという時には、これらの道具を駆使した手仕事が冴える。その出番のために、道具たちは静かに出番を待っている。
タイセイホームで仕事を始めて3年。
「施主さんが度々足を運んでくれる現場が楽しい」と話す。こだわりを持って「こんな風にしたい」という施主に、できる限り寄り添いさらに上を目指すのが松岡流。
床や梁の色はいくつも塗りのサンプルを作り、納得のいくまで話し合う。「お客さんに喜んでもらえるのが何よりうれしい」と、人懐こい笑顔がこぼれる。
住む人の顔が見える現場は、「この家族の何十年もの暮らしを支えていくんだ」という、熱い思いに駆られるという。
「ヘゴなもんは作れん」。きっぱりとした口調が頼もしい。
現在、息子の択弥さんに家づくりの技術と心得を伝承中。「僕は4代目、息子で5代目」と胸を張る、生粋の大工。真面目な手仕事が受け継がれていく。