職人File Vol.3 「後々まで残る手の軌跡」
左官 田中勇二
年齢:50歳
左官の仕事に就いたのは15歳。手に職をつけたいと考え、親しい人の勧めでこの道を選んだ。
鏝を真っ平らに滑らす練習を積み、体に覚えこませた。
鏝の持ち方、圧のかけ方、材料の扱い方など、小さな技が集まっての仕事。
「最初の10年は辞めたい辞めたいと思いよった」と、厳しい修行の日々を振り返る。
ビルやマンション、学校などの大型物件を手がけることが多く、最初はただ塗るだけの仕事から、
自分なりの仕上げができるまで10年。
さらに納得のいく仕事ができるようになるまで10年。
今では、左官歴35年の鏝さばきが冴える。
材料によって、天気によって塗りや乾きの状態が異なり、
それを正確に読み取って塗るスピードと仕事の段取りが決まる。
まずは、壁を読むことが勝負だ。
タイセイホームの仕事をするようになって7年。
室内外とも塗り壁が標準施工となり、腕を振るう機会が増えた。
壁塗りが始まる前に、現場で塗りのパターンを決める打ち合わせを行う。
施主の要望を聞きながら、部屋に合った塗り方を提案する。
平滑な壁、鏝目を残した壁、細い線でシャープな印象に仕上げた装飾的な壁などなど。
「お客様の希望どおりの壁に仕上げて、喜んでもらえることがうれしい」と、
人懐こい笑みがこぼれる。
足場が外れると外壁の塗りも始まる。手をかけた塗り壁の家は、遠目に見ても重厚感がある。
「見栄えが違うきねぇ」と、自信有りげな口調が頼もしい。
最近では、壁に手型を残す家族も多く、田中氏もそのメモリアルに立ち会う。
お客様が「これでよし!」と満足するまで何度でも塗り直し、「一緒に作る喜び」を分かち合う。
手仕事が目に見える壁の仕事、後々まで残ることも何よりのやりがいだ。
タイセイホームのお客様にとって、タイル貼りの洗面所やキッチンは憧れの一つ。
定規を当てながらの貼り込みと細かなタイルカットを繰り返す作業。施主の顔を思い浮かべ、
「曲がらんように」と気持ちを張り詰める。
最後の1枚がピタリとはまり、ビシーッと直線が決まると「そりゃあ、気持ちえい」と田中氏。
奥様の「わぁ!」という歓声を聞くのもうれしい瞬間だ。
家が出来上がると、外回りを整える外溝工事も田中氏の仕事。
道路から玄関までのアプローチはスムーズに進めるように、水がちゃんと流れるように、
車の出入りがスムーズにできるように。
図面にはない土地の傾斜に合わせ、勾配調整はほとんどが現場合わせ。
ベテランの経験と勘が、「家の顔」を決める。